「彼の診断結果なんだけど・・」
「どうでした」
「悪い男ではないね。優しい部分もあるし、何より彼は君を愛している」
「そうかなあ・・、そんな態度示さないし、今回の件もそうなんだけど都合わるくなるとすぐ逃げ出しちゃうんだよ。私のこと愛してるとは思えないわ」
「男として、この件で逃げるのは確かに最低です。でも、逃げ出したくなる気持ちも同じ男として分かる気がします。だって、彼は社会ではまだ半人前でしょう。給料だって自分を食わすのがやっとのはず。そこへ彼女が妊娠した!お先真っ黒になりますよ」
「そんなこと言ったって、生でエッチしたのはあいつですよ。私はイヤといったんですが、もし、子供ができたら俺が責任とると言うもんだから、私許したんです」
「彼はそんなこと言ったのかい」・・「ええ、間違いないです」
ああ、これも九柴火星Bの特徴だなと思った。SEXは情熱的だが、快楽に負けて後先考えずに行動してしまうところがある。自分の欲望を達成するため、手段を選ばないところもある。
妊娠したという事実は、彼ばかりではなく、彼女にも責任がある。彼女のほうも、その状態の関係を拒めたはずだ。彼女も九柴火星、お互い火星の性質である。止められない部分が働いたのだろう。
女性特有の心理で、責任を誰かに押し付けないと気がすまないのであろう。
「彼を責めるのは簡単だが、君は妊娠してる。今後どうする?」
「どうしていいか分からない・・でも、赤ちゃんのためにもやはり父親は必要だし、私一人で育てるの大変だと思う。確かにこの間の計算では、いろいろな手当てをもらえば何とかやれるかもしれないけどシングルマザーになるのは、なんかイヤだわ」
「彼と一緒に頑張ってみるか」 彼女はそうなるしかないと、うなずく。
「苦労するよ。どんな苦労かというと、君は同時に二人の子どもを育てる苦労になる」
「二人の子供?」
「赤ちゃんと彼さ」
「君は赤ちゃんの面倒みながら、彼も面倒みなければならない。彼は社会人としてはまだ子供。仕事ではまだまだ使い物にならない。彼が一人前になるには10年はかかる」
「えーそんなに!」
「その間君は内助の功で頑張らなければならない。もちろん生活費がたりないので、君が働きに出なければならない。忙しい10年になるよ」
「やだな・・赤ちゃんが小さいときは家にいてあげたい」
ととどき女性は無理難題なことを言う。そうできるといいが、現実はそう甘くない。彼女が向こうの実家に入り、彼の親の援助を受ければ、それも可能だろう。しかし、彼女は最初にそれを拒んでいるのである。さらに自分の親の援助も受けたくないと言う。
原因はみんなの反対を押し切ってそういう結果になったのだから、彼女のプライドがそうさせたのだろう。ただ、理想と現実は違うと彼女は認識しなくてはならない。
「君が彼と一緒にやると決めたら、苦労はしかたないよ。イヤでも苦労しなくてはならない。ただ、その苦労は必ず報われる。頑張った分人には褒美がくるもんだよ」
「褒美?」
「生きていける自信さ!そしてこの自信は大きな力になる。その力は同年代の子より後半の人生を良くしてくれる。人間、苦労はみな平等に回って来るんだよ。若いときに苦労するか、年とってから苦労するかどちらか必ず回ってくる。どうせ苦労するのなら先にやってしまったほうが後は楽だよ」
「世の中には君たちと同じ妊娠した若いカップルがいるだろう。子供を生むと決心したら、みんな覚悟を決めて頑張るはずだよ」
「そうかあ、覚悟を決めて頑張るしかないか・・」
「あいつにその気持ち分かるかな?」
「分からせるのは君の役目だよ」