子供を生む決心

彼女は二度目の妊娠である。まだ、20歳。
 
 一度目の赤ちゃんは中絶した。19歳のとき。

 彼女は同棲した経験がある。

 同棲相手の男は高校時代の先輩である。当事の若者グループの間柄。その男はグループの中でもひときは目立っていた、リーダー格である。その男と恋に落ち、同棲を始めたのである。

 同棲して、間もなくその男は家に帰らなくなった。他に女ができたのである。週に一回帰ればいいほうで、彼女には淋しい日々が続いた。それでも、やさしいところもあり、「この金で、好きなもの買いな」と生活費は置いていく男らしい面もあった。彼女は先輩でもありグループのリーダーをはってたその男に、頭が上がらないのである。強さと怖さも知っているので、いいなりになっていたのである。

 大人から見れば、そんな男のいいなりになる必要性はまったくないが、あの年齢の若者の心境では先輩と後輩の差は天と地ほどの差がある。そしていいなりになり、自由が奪われるのである。

 そして、妊娠。かっこはつけているが、社会的責任を果たせない悪い男である。

 妊娠と同時に、男は逃げていき、彼女は一人取り残された。そして、彼女はなくなく中絶を決心したのである。そのときの彼女の悲しみは想像を絶するもんだった。

 悲しみのあと、彼女は決心した。今度赤ちゃんができたら、何があっても絶対生むと。

 彼女の手相を見ると。

 子供は存在しているのである。中絶ではなく。ちゃんと彼女の21歳の位置に存在している。

 「赤ちゃんはちゃんと生まれますよ、君には子供ができる」と言うと。

 彼女は、涙を落とした。。

責任から逃げる男

 こうなったら、やるしかない!

 現在の彼女の不運な状況を好転させる。

 占いの検知からいけば、彼とはうまくいきません。残念だけど、赤ちゃんはあきらめなさい。・・である。

 ただ、私のところへ来てる、お客さんはみんなそれを望んでない。沖川さんのとこへ行けば、うまくいく方法を教えてくれる、との評判で来てる。彼女もそうである。

 「奇跡を起こしましょうか」☆☆「え!」

 彼女は一瞬、びっくりと戸惑いをみせた。そして期待感の顔に変わった。

 「それは、占いの奇術や魔法の杖でやるのではありません。うまくいくためには、占いだけではダメなんです。これから先は、私の人生経験の正攻法でやります。それでもいいですか?」 

 「はい、お願いします」と彼女に異存はない。私を信じてるのである。

 「占いの運勢では、あなたは今、最悪のパターンです。きっとあなた自身、私は男運が悪いと思っているでしょう。しかし、それは運勢ではなく、あなた自身に技術がなかったからです。」

 「技術?」

 「そうです、人を愛する技術、男を見極める技術、男とうまくやっていく技術です。その技術が未熟だから、失敗を繰り返すのです」男と女の基本的なことを彼女に教える。長いので、ここでは省略。

 私と彼女は、具体的な未来図をつくる作業にかかった。

 1、彼がもらってる、給料で生計が立てられるか(もちろん、贅沢はしない)ギリギリでどこまでやれるか、出産費用はどうするか、親の援助は頼めるのか、親との同居は、赤ちゃんが出産し、彼女が働きに出る時期はいつごろがいいか、国の公的資金は活用できるのか、市町村や自治体の補助は、考えられるありとあらゆるプランを練る。ほとんどが数字の計算である。数字とはおもしろいもんで、計算はマジックに変わる。そうするとやれるという確信がでてくる。苦しい貧乏生活もせいぜい、1年くらいである。そのくらいは我慢できると彼女は言った。

 2、彼が、結婚を拒んだ場合も検討した。責任逃れの卑怯な男がいなくても、彼女が自立できるプランである。慰謝料や養育費、これは難しいけど、相手の親に出させることも視野にいれる。ああいう男に育てたのは、はっきりいって親が悪い。それから、現実的な母子手当て、市町村や県の母子寮を検討する。

 やってみると、どちらのプランも何とかやっていけると出た。何故?こんな面倒なこと計算したかというと、不安を取り除くためだ。こういう状態の子は朝から晩まで不安なことばかり考える。考えれば、考えるほど、「どうしょう」と落ち込むのである。

 建設的にやれると判断ができたら、不安は取り除かれるし、それが自信につながる。その自信が今後の彼とのバトルに有利に働く、ここまできたら、方法はひとつ、彼に打ち勝つのである。

 そしてこれが、彼が逃げようとしても、逃げさせない方法となる!